相続放棄をした際の財産管理制度の見直し


静岡市の弁護士の若狹秀和です。
今回は「相続放棄」と法律改正のお話です。


そもそも「相続放棄」とは?

民法には「相続放棄」という制度があります。
「相続放棄」が認められると,その人は初めから相続人にならなかったものとみなされ,亡くなった方の財産をプラスもマイナスも相続しないことになります。
勘違いされている方も珍しくないのですが,相続人(例:AさんとBさんの2人しかいない場合)同士で「Aさん:自分が全て相続しますね」「Bさん:自分は何もいらないです」という遺産分割協議がまとまった場合,Bさんの対応は法律上の「相続放棄」ではありません。

「相続放棄」の要件

「相続放棄」をするためには,以下の3つの要件が必要で,家庭裁判所に必要書類を提出する必要があります。
  1. 相続の開始があったことを知った日から3ヶ月が経過していないこと(※裁判所が認めれば延長可)
  2. 相続の単純承認及び限定承認をしていないこと
  3. 法定単純承認事由がないこと
1については,「知った日から」3ヶ月というのがポイントです。
「お父さんが亡くなって半年経ったら,家族が誰も知らなかったのお父さんの借金の請求があった!」というケースでのご相談が時々ありますが,その場合でも相続放棄ができる場合が十分ありえますので,亡くなられてから3ヶ月を経過していても諦めずに・焦らずにまずは弁護士等の専門家に相談してください。

3については,主に「相続財産に手をつけてしまった場合」に問題になることが多いです。 一般的に経済的な価値を有するものを取得した場合に該当しますが,形見分けなど,判断が微妙なケースもあります。
なお,保険金の受取人が相続人とされている場合,保険金は法律上の「相続財産」には該当しないので,「単純承認」にはあたりません。


民法第940条第1項の改正

さて,2023年4月,その「相続放棄」に関連して地味ながら大切な法改正がある予定です。
 
[改正前]

相続の放棄をした者は,その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって,その財産の管理を継続しなければならない。(下線部引用者)

[改正後]

相続の放棄をした者は,その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間,自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。(下線部引用者)



これまで,相続放棄をした人が相続財産をどのように,いつまで管理すればよいのか,相続人となる人がいない場合はどうすればよいのか,その責任の範囲が条文上不明確でした。

そうすると,条文の解釈上,たとえば,静岡の人が相続放棄をし,見たこともない北海道の土地・建物を「自己の財産におけるのと同一の注意」で管理しなければならないケースもありえてしまいます。

相続放棄をした人が完全にその責任を免れるためには,
  • 次の順位の相続人がいればその相続人に管理を引き継ぐ
  • 「相続財産管理人」選任の申立てや裁判所に費用の予納などをし,その「相続財産管理人」に管理を引き継ぐ
などをしなければ,相続放棄を有効に行なっても,相続財産については一定の場合引き続き損害賠償リスクを負う…?とも考えられたのです。
ちなみに,調査の限りは940条の損害賠償リスクについて正面から判断した裁判例は見当たりませんでした(それくらいマイナー論点ということですね)。

今回予定されている法改正では,条文の要件を見直し,相続放棄をした人に保管義務があるのが「放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」と限定されることで,たとえば相続放棄をした人が「見たこともない土地・建物」については保存義務がないことが明らかになる見込みです。

「相続財産を占有している人」の場合は,相続放棄後も引き続き保存義務が課されますので,その点ご注意ください。





(本記事は2022年2月18日時点の情報をもとに作成されたものです。)

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